2026年8月5日
消化器病センター長 田中 龍
変なバイト斡旋のメールではありませんよ?
でも、今回のタイトルは誰か(どこかの学会とか)に怒られそうだなぁ。。。
さて、肝臓・膵臓に続いて胆嚢のお話です。
これらは肝・胆・膵とセットで呼ばれることが多いです。
まずはいつも通り胆嚢の場所です!
肝臓の下にコバンザメみたいにペトってくっついています。
ザックリおへその右上、肋骨の裏くらいです。
たまにいらっしゃるんです、『お腹痛いんです』って言いながら身体の左側を押さえて、『健診で胆石を指摘されたのでそれかもしれません』と。
もちろん辛そうな患者さんを前に声に出したりはしませんが、心のなかでは『多分違う!』と叫んでしまいます。
さて胆嚢の仕事、皆さんご存知ですか?
【胆汁をつくる!】
これ、ありがちな間違いです。
胆汁は肝臓で作られてます(さすが肝臓!スーパースター!!)
それを一時的に溜めておいて、必要な時に必要な分だけ消化管に放出する、そんなお仕事をしてくれています。そう、本当は簡単じゃないんです。
その様子を以下に、少し詳しく説明をします。
お仕事その1:胆汁の高度な濃縮と組成変化
肝臓で作られた胆汁は、胆のう内でドロドロに濃縮されます。
この時、胆汁は弱アルカリ性から弱酸性へと変化を遂げます。なんとこれで、カルシウム塩の沈殿を防ぎ、胆石が作られにくくなるのです。
お仕事その2:胆汁の排出コントロール
胆のうは、食後(特に脂質の摂取)のタイミングに合わせて、溜めてあった胆汁を十二指腸へと送り出します。
お仕事その3:胆汁酸の腸肝循環における動態管理
胆のうから排出された胆汁酸は、脂質の消化・吸収効率を助けてくれます。
さらに、消化管に排出された胆汁酸の約95%は回腸末端で再吸収され、肝臓に戻って再利用!これを腸肝循環と言います。エコです!
いやいや、全っっ然簡単な仕事じゃない!!
胆汁生成はしておりませんが、胆嚢はこのように大事な仕事を細やかにしています。目立たないけど大事な仕事です。肝臓はスーパースター、膵臓は縁の下の力持ち、と表現しましたが、胆嚢はひとつの仕事を極める仕事人です。

そんなわけで胆のうは【生命維持に欠かせない臓器】というよりは【消化吸収機能において重要な役割を担った臓器】なのです。
<閑話休題>
さて、ちょっと難しい話をしてしまったので、豆知識です。
皆さん、熊をご存知ですか?
熊・ベアー・poohです。

おいおい、急に熊の話し始めたぞ、この医者!
と思ったそこのあなた。まぁ聞いてくださいよ。
熊は哺乳類という事もあって、実は内臓が人間と似ています。
熊にも胆嚢があって、熊の胆嚢は【ユウタン】とか【クマノイ】と言われて生薬として結構貴重なんです。
これを基に開発された西洋薬や漢方薬が数多くあるんです。
・・・『へぇー』って言いました?
どうですか?
医療者ぽいでしょ?
医学書や大学の授業で習ったかと思うでしょ?
熊谷達也さんのカイゴウの森という小説で知りました。(もちろんその後ちゃんと調べましたよ、埃被った教科書を開いて)
医者の知識なんてそんなもんです。

さて、まじめな話に戻ります。
ここでは詳しくは説明しませんが、胆嚢の病気における治療は消化器外科の力が必要になる事が多く、最初から手術(胆嚢摘出術)が選択されることも多いです。
いや、必殺仕事人、トラブルあったら手術で取られちゃうんかい!
実は手術が必要な胆嚢というのは、もうあまりちゃんと働けてない胆嚢であることが多いのです。仕事人、引退です。
当然出てくる疑問が、胆嚢なくなっても大丈夫なの!?というお話。
胆のうが摘出された場合、胆汁の「貯蔵・濃縮」ができなくなるため、肝臓で産生された薄い胆汁が絶えず十二指腸へ流れ続けることになります。これにより、一度に大量の脂質を摂取した際の消化能力が低下したり、空腹時に胆汁が流入することで下痢(胆汁性下痢)を引き起こしたりすることがあります。
もちろんきちんと仕事をしている胆嚢は身体としてはあった方がベターですが、胆嚢を身体に残すデメリットと摘出するメリットを天秤にかけて判断することになります。
しかし、実際はそう杓子定規にはいきません。
『明後日、就職の最終面接があります。これにかけてきました』
『1週間後の娘の結婚式に出られればあとはどうなってもいい』
『週末に婚約者の家に結婚の挨拶に行きます』
『娘が孫を残して消えたので、孫が成人するまでのあと五年は絶対に死ねません』
全て実際に言われたことがある内容です。
その全てに応える事は、少なくとも今の私には出来ないです。個人の力も医療の力も限界があります。
ただ、我々は病気を診ているのではなく、人を診ているので、当たり前ですがこういう背景が生じます。【とにかく手術】とはいかないことも多いです。私個人の考えとしては、一人一人の背景に可能な限り応え、一緒にベストな答えを見つけていきたいと思っています。
そんな甘っちょろい院長ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

