受診者のみなさんに安心と信頼を提供する新宿つるかめクリニック

新宿つるかめクリニック　金子哲史

その血圧値、高血圧ですか？

最近、TVCMでも血圧対策に関する飲料や食品、サプリメント等をよく目にするようになりました。それだけ血圧に皆さんの関心があるということでしょう。

そこで、今回はこの『血圧』についてお話させていただきます。

血圧？

そもそも血圧とは何で、いつ頃から測定されるようになったのでしょうか？
私たちの血液は心臓の収縮と拡張により体中を巡り、栄養や酸素を送り届けます。このとき流れる血液により血管にかかる力（圧力）が血圧です。
血圧は今から約290年前、イギリスのハーレス博士が馬の頚動脈にガラス管を挿入し、血液がどこまで上昇するのかを調べ、その存在を発見したといわれています。人間では1828年フランスで動脈に細い管を挿入して水銀の柱にどのくらいの圧力がかかるのかを調べたのが最初のようです。ただ、安全性に問題があったため、1896年にイタリアのロッチ博士が開発した測定器が血圧計の始まりといってよさそうです。現在のような血圧測定が行われるようになったのは、1905年にロシアのニコライ・コロトコフがカフを用いて上腕の動脈を圧迫し、聴診器で血液が流れる音を聞いて測定する方法を発明してからのことです。これ以降、収縮期血圧（最高血圧：心臓が収縮して血液を送り出すときの血圧）と拡張期血圧（最低血圧：心臓が拡張して血液をため、膨らんだ大動脈が元に戻るときの血圧）の二種類を測定できるようになりました。しかし、当時、血圧の変動は病気としての関心はなく、血圧は高い方が傷ついた臓器の血流を維持するために有効であり、血圧を下げると臓器障害が進行すると考えられていました。その後、感染症による死亡率が減り、心臓・脳血管疾患による死亡と血圧高値との関係が証明されてくると血圧値が注目されるようになりました。

高血圧とは？

それでは、高血圧と定義される血圧値はどのように決められているのでしょうか？
血圧高値が確認されたら、即、高血圧症と診断できません。なぜなら、高血圧症には感染症のように、原因となる細菌やウイルスといった「もの」があるわけではないからです。血圧は連続値、すなわち、時々刻々と常に変動しています。つまり、高血圧症とは人為的に定められた数値といえます。
以前は血圧の目安として、「年齢＋100」もしくは「年齢＋90」などといわれた時代もありました。その後、「160／95mmHg以上」を高血圧とする定義が提唱され、さらに研究が進んだ結果、「140／90mmHg以上」へと数値が変更になりました。血圧が高いと脳卒中などを起こしやすいことから、血圧が高い人たちを「高血圧」とする考え方自体は一貫して変わりませんが、現在は「フラミンガム研究」や「久山町研究」などの種々の検証結果に基づいて数値が定められています。
最新の数値として、日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」では、「成人における血圧値の分類」を下表のように定めています。

いつもの血圧？

【日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編︓「高血圧治療ガイドライン2019」ライフサイエンス出版、p-19、表2-6より転載】

「家ではいつも130位です」
健康診断の二次検査で血圧高値を指摘された方に診察室内でお話を聞くとよく耳にするフレーズです。確かに、いざ健康診断となると緊張して血圧が上昇する方がいらっしゃいます。そのため、同ガイドラインでは診察室での血圧以外に異なる測定方法による基準を上表のように示しています。
一方、我が国には約4,000万台の家庭血圧計が稼働していると考えられ、これは1世帯に1台に相当します。皆さんも身近に自動血圧計があれば、高血圧症と診断されていなくても、是非、習慣的に血圧を測定し、記録してみてください。そして、それを医療機関受診時に持参していただければ、冒頭の「家では～」の言葉の重みが全く違ったものになります。

血圧の単位「mmHg」？

「mmHg」の呼び方はミリメートル・エイチジーで、これはガラス管内の水銀（Hg）を1mm持ち上げる圧力を指します。ですから、140mmHgといえば、水銀血圧計で水銀を140mm押し上げる力に相当することになります。従来の血圧測定は水銀柱を使用していましたが、2021年に製造、輸出入が禁止され水銀は使用されなくなってきました。つまり、「mmHg」という単位だけが取り残されてしまいました。そこで政令により、単位の変更も検討されましたが、最終的に「国内外の潮流をふまえ，生体内の圧力の計量という特殊な計量に用いる法定計量単位として規定し，期限の定めなくその仕様を可能とする措置」が講じられました。これによりmmHgおよびcmH2Oは継続して使用できることになったのです。そのため、今後、血圧計は変わっても、血圧値の単位としてのmmHgは変わらないといえます。

最近の動向

今夏、「高血圧治療ガイドライン2019」から「高血圧管理・治療ガイドライン2025」への改訂が予定されています。新しいガイドラインでも高血圧の基準値は140／90mmHg、合併症のない75歳未満の降圧目標は130／80ｍｍHg未満と従来の数値が維持される予定です。
また、今話題の「ナトカリ比（尿ナトリウム／カリウム比）」は、文字通り食事によるナトリウムとカリウムの比のことで、この値が高いと血圧を上昇させることが判っています。そして、この比を4未満もしくは2未満にすることが推奨されていますが、1回1回の食事でこの数値を測定することは困難です。そのため、下図のようなマップを参考にすると良いかもしれません。

このナトカリ比を見てもお分かりのように、血圧管理にはやはり、塩分摂取のコントロールが重要であることに変わりはありません。

血圧高値といわれたら

最後に、血圧高値の持続は高血圧症に繋がります。高血圧症は生活習慣病ともいわれ、日々の食生活や運動量に大きく左右されます。そのため、何よりも自己管理が肝要です。自己管理でどうにもならなくなった場合、降圧剤による薬物療法があります。ただし薬はあくまでもお手伝いに過ぎませんので、薬を飲んで血圧が安定していれば何を食べてもいいわけではありません。

そこで、血圧高めと言われたら健康飲料に頼るだけではなく、
① 家庭で血圧を測定・記録し、自分の血圧の状態を把握すること
② 食事は減塩を心がけ、魚・野菜を中心としたメニューにすること
③ 1日30分以上の軽い有酸素運動（ウオーキングなど）を習慣化すること
を実践していくことです。

その効果について、かかりつけ医に相談するのもよいでしょう。

参考資料
●内科-100年のあゆみ（循環器）12．高血圧．日本内科学会雑誌第91巻第3号
●日本高血圧学会：高血圧治療ガイドライン2019
●通商産業省SI単位等普及推進委員会:新計量法とSI化の進め方. 1999.
●経済産業省:計量単位令の一部を改正する政令が閣議決定されました. 2013.
●日本高血圧学会：「日本人のための尿ナトカリ比コンセンサスステートメント」2014
●厚生労働省：「ナトリウム（食塩）とカリウムを測って健康に」