呼吸器内科 小川ゆかり
RSウイルスは呼吸器症状を引き起こす一般的な感染症で、4〜5日の潜伏期間を経て、発熱、咳、鼻水・鼻づまりといった風邪のような上気道炎症状が数日続きます。発症した場合の治療は対症療法が中心で、RSウイルス感染症そのものに対する治療薬はありません。
乳幼児がかかる疾患として広く知られており、下気道炎が乳幼児で問題になることが多いですが、実際は年齢を問わず感染し、高齢者や呼吸器・心臓などに基礎疾患を持つ人は重症化リスクが高いことが知られています。
RSウイルス感染の60歳以上の患者は年間70万人と推定されています。このうち入院は6.3万人、院内死亡は4,500人です。これはインフルエンザに匹敵する患者数です。インフルエンザと比べた場合の高齢者のRSウイルス感染症の特徴としては、死亡率は若干低いのですが、入院期間が長期間となる傾向があります。そのため、高齢者では日常生活を送るための動作能力が低下し、寝たきりになってしまうケースもあります。
乳幼児ではRSウイルス感染症は迅速検査キットを用いて診断することができます。
しかし、高齢者の場合は小児と比べウイルスの排出量が少なく、迅速診断キットでは正確な診断ができません。よって、高齢者の場合は迅速検査自体も保険適応外となっています。
治療に関してもインフルエンザのような抗ウイルス薬はなく、症状を和らげる治療が中心となります。
このように、診断法・治療法がないことが、高齢者のRSウイルス感染症の認知度低下につながっていると考えられます。
RSウイルスそのものが直接的な死因となることは少ないです。
しかし、危険なのはRSウイルス感染によって基礎疾患が増悪したり、免疫力が低下して二次感染の引き金になることです。
前述したように、毎年60歳以上のおよそ6.3万人の入院と4,500人の院内死亡が推定されていて、その死亡率はインフルエンザと同等です。
これまでは、重症化リスクの高い乳幼児の重篤な下気道疾患の発症を抑制する「シナジス」(一般名・パリビズマブ)が承認されているのみでした。 2023年1月、グラクソ・スミスクライン(GSK)のRSウイルスワクチン「アレックスビー筋注用」が60歳以上の成人に対する国内初のRSウイルスワクチンとして発売されました。同時期にファイザーの「アブリスボ筋注」が妊娠24〜36週の妊婦に対して承認を取得し、3月に60歳以上向けでも承認を取得しました。
当院ではアレックスビーを接種することができます。 60歳以上の方が対象で、基礎疾患(COPD・気管支喘息といった呼吸器疾患、心不全、糖尿病、脳梗塞、脳出血、慢性腎不全、肝臓病、血液疾患、免疫不全疾患など)のある高齢者への有効性が期待されています。 効果としては、発症する確率、入院する確率、人工呼吸になる確率をおよそ5分の1にする有効性が見込まれています。 主な副反応としては、添付文書に出現頻度が10%以上のものとして、注射部位疼痛、頭痛、筋肉痛、関節痛、疲労があります。
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