循環器内科 門前 幸志郎
皆さんは「心不全」という言葉を耳にしたことがありますか?日常生活で気軽に使われることの少ない医学用語かもしれませんが、心不全は私たちの健康に大きく関わる重要な病態です。私が担当する今回のブログでは、循環器専門医として心不全について詳しくご説明させていただきます。
心不全とは、「心臓のポンプ機能(心臓が血液を体中に送り出す機能)が低下し、身体が必要とする十分な血液と酸素を供給できなくなる状態」と定義されます。これにより、息切れ、呼吸困難、易疲労感(疲れやすさ)、むくみなど、身体の様々な症状が引き起こされます。
心不全の原因となる疾患は多岐にわたりますが、主なものには以下のようなものがあります。
これらの疾患は、心臓に負担をかけ、その機能を低下させることによって心不全を引き起こすことがあります。
心不全は全世界で増加傾向にあり、特に高齢化が進む日本ではその傾向が顕著です。現状では日本国内において、心不全の罹患者数は約120万人、年間の死亡者数は約7万人にのぼる(いずれも2020年において)と推定されています。日本人の死因のうち、心血管疾患は悪性新生物(がん)についで2番目であり、そのうちの多くに心不全が合併しています。これら患者数、死亡者数の多さは、「心不全パンデミック」と表現されるほどの状況で、将来的にもより重要な健康課題となってくるでしょう。
心不全にはステージ(重症度の分類)があり、病状の進行度に応じて以下のように分類されます(図1参照)。
心不全のステージによって治療の目標や治療方法が変わりますし、患者さんの背景や他の合併疾患の状態などにも影響を受けますので、専門医と相談しながら自身の状態に合ったケアを進めることが重要です。
<図1>
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出典:日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)より改変
心不全の診断には、様々な検査が行われます。主な検査には以下のようなものがあります。
これらの検査によって、心機能の低下や心臓の負担が評価され、心不全の診断とその重症度が判定されます。
心不全の治療は、原因となる疾患の治療と、心不全自体の症状を改善するための治療があります。大切なことは、心不全の重症度を進ませないための治療を、患者さんの個々の状態に応じて選択することです。つまり、ステージAないしBのような症状のない初期の段階では、基礎疾患の管理や心臓の器質的異常を進ませないような治療が行われます。ステージCないしDのようなより重症の段階においては、症状の改善を図り生活の質を保つ治療や、心機能を改善させるための手術療法や補助装置による治療が行われます。具体的な治療方法としては、以下のようなものがあります。
ひとつ特筆しておきたいこととして、近年、薬物治療の分野で大きな進歩がありました。この最新の治療薬には、いわゆる「Fantastic 4(ファンタスティックフォー)」と呼ばれる4種の薬剤があります。これらはβブロッカー、MRA、SGLT-2阻害薬、ARNIといった薬剤で、心臓の負担を減らす、血圧を下げる、心臓のリモデリングを防ぐなどの作用があります。これらの薬は、心不全の進行を抑え、病状の安定や生存率の改善に寄与することが多くの研究で示されていて、最近の学会ガイドラインでも、心不全治療薬としての優先度が高くなってきています(図2参照)。
<図2>
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出典:日本循環器学会/ 日本心不全学会合同ガイドライン
2021年JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版
急性・慢性心不全診療
この記事を通じて、皆さんが心不全の基本について理解を深めていただければ幸いです。心不全は決して軽視できない病態ですが、適切な管理と治療を行えば症状をコントロールし、生活の質を改善させることが可能です。何気ない日常の中で、心臓が黙々と体を支えていることを忘れずに、健康な生活を心がけることが大切です。もし心臓に関する不安や症状がある場合には、遠慮なく専門医にご相談ください。私たちは心から皆様の健康をサポートすることをお約束します。最後までお読みいただき、ありがとうございました。