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冬場に多発!身近に潜む危険「ヒートショック」

川上明夫

寒い冬場は、長時間肩まで湯船に入っている方が多いのではないでしょうか。でもその入り方は危険かもしれません。厚生労働省の調査によると、令和3年度の高齢者の浴槽内での不慮の溺死及び溺水の死亡者数は4,750人でした。これは、交通事故死亡者数2,150人の約2倍です。また、夏場に熱中症で亡くなる方は約600人なので、それよりはるかに多い数です。


高齢者の「不慮の溺死及び溺水」による発生月別死亡者数(令和元年)(参考ホームページより)

とくに危険なのが冬期。1月の入浴中に亡くなった高齢者は8月の9倍以上にのぼります。その原因の一つは冬の風呂場の寒さです。脱衣所や洗い場には暖房がなく、湯船に入るまでに体が冷えてしまいます。もう一つは、寒いところから急に湯船につかることで体が温まることといわれています。これらによって起こるのが「ヒートショック」です。次の図をご覧ください。

暖かい部屋から寒い脱衣所に入ると、血管が急激に収縮するため、血圧は急上昇し、風呂場に入るまで上がり続けます。その後、湯船につかりっぱなしだと、今度は体が温まることで血管が広がり、血圧が急激に下がります。つまり、血圧の変化は脱衣所と湯船の中で2回起こることになります。こうした血圧の急激な変化によって心臓、脳、血管に多大な負荷がかかり、その結果引き起こされる心筋梗塞、脳卒中、不整脈、低血圧などの深刻な健康被害を「ヒートショック」と呼びます。入浴中に死亡した方はこの「ヒートショック」がきっかけとなり、心筋梗塞、脳卒中を発症したり、不整脈、低血圧症によって意識を失って溺れたりしたと考えられます。ヒートショックは自宅での入浴中だけでなく、温泉でも起こり得ます。とくに冬場の露天風呂は要注意です。またサウナに長時間滞在する、水風呂に入るなどもヒートショックを起こす危険な行為ですのでやめましょう。
 ここまで入浴時のヒートショックについて述べてきましたが、実はトイレでもヒートショックによって多くの方が亡くなっています。トイレは温度差に加えて、尿意を我慢したり、排便の際にいきんだりすることで血圧が上昇し、一方で排尿、排便後に急激に血圧が低下するため、ヒートショックが起こりやすいのです。

ヒートショック予防のためにできること

十分な水分補給をする

一回の入浴で失われる水分は500~800mlといわれています。体内から多くの水分が奪われると、血圧が低下して血液の流れが悪くなり、脳梗塞や失神が起きやすくなります。入浴前後にしっかり水分補給をしましょう。

飲酒直後、食直後は入浴を控える

飲酒をすると血管が広がったり、アルコールの利尿作用で脱水や低血圧になりやすくなります。食後も血圧が下がりやすく、その状態で入浴すると心臓や脳に十分な血液を送れずに意識を失う危険があります。

脱衣所や浴室を暖める

暖房を使って脱衣所やトイレを暖めておく、湯船のふたを開けたりシャワーでお湯をまいて浴室を暖めてから入浴するなどの工夫で、場所ごとの温度差を小さくしましょう。

湯船に入る前にかけ湯やシャワーを浴びる

湯船に入る前にかけ湯やシャワーを浴びることで、体をゆっくり温めることができ、血圧の急激な変化を抑えることができます。

お湯の温度は41℃以下にして10分以内に出る

お湯が42℃以上だと交感神経が刺激され、血管が収縮し血圧は上昇します。また10分以上つかっていると血圧が下がってしまいます。なお、入浴中に意識が遠のく感じがした場合は早めに湯船から出ましょう。

浴槽に手すりや滑り防止マットを設置する

お風呂にずっと入っていて血圧が下がってくると力が入りにくくなったり、滑りやすくなったりします。浴槽に手すりや滑り防止マットを設置して、浴槽から立ち上がりやすい環境を整えておきましょう。

湯船を出るときはゆっくり立ち上がる

急に湯船を出ると全身にかかっていた水圧がなくなり、血管が拡張して血圧が急低下し、脳への血液が減って一過性の意識障害を起こす危険があります。湯船を出る際は手すりなどをつかみ、ゆっくり立ち上がりましょう。

同居者がいれば入浴前に一声かける

異変があったときにすぐ気付いてもらえれば、具合が悪くなったり溺れたりしても早期発見につながります。入浴するときは同居者に一声かけ、同居されている人は、入浴中、定期的に声かけをしてあげてください。

主治医に相談する

ヒートショックの原因は、冬場の入浴以外に、65歳以上、生活習慣病や睡眠時無呼吸症候群、不整脈や喫煙などがあります。入浴中に意識が遠のく、お風呂から出た瞬間立ちくらみがするなどの症状はヒートショックのサインかも。ただの湯あたりやのぼせと考えず、早めに主治医に相談を。

家族がヒートショックになったら

意識がない家族を見つけたら、湯船から引き上げる、難しければ湯船のふたか縁に腕を乗せて沈まないようにして、救急車を呼びつつ湯船の湯を抜きましょう。救急車を待っている間に、救急隊員の指示を受けながら必要に応じて心肺蘇生などできる限りの応急処置を行いましょう。

参考文献

冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください! -自宅の浴槽内での不慮の溺水事故が増えています- (消費者庁ホームページ)

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