人間ドックアドバイザー 早瀬行治
大学1年生のころ「生命の起源を探る」というゼミにはいった。理由はひとつ。打ち上げが生物の教授宅で催され、すき焼きかしゃぶしゃぶ食べ放題だという噂を聞いたからである。
カローラ・レビンを運転して、栃木の葛生あたりに化石を拾いに行ったりした。抄読会では、生命の起源は「ニワトリが先か卵が先か」と同じで、「DNAが先かタンパク質が先か」みたいなもんだなと話し合った。情報源であるDNAがないとタンパク質をつくれないし、合成酵素(タンパク質)がないとDNAがつくれないという具合である。
大学卒業のころ、RNAこそ生命の起源であるという新説が出た。DNA(情報源)→RNA(設計図)→タンパク質という流れの真ん中に位置するRNAこそ生命の起源であるというのである。
このころエイズウイルス、C型肝炎ウイルスが相次いで見つかった。これらのウイルスの遺伝情報はRNAであった。DNA←RNA(逆転写)という流れもあることがわかった。RNAはDNAのような修復機構がない。複製のとき間違うとそのまま遺伝情報として残る。RNAウイルスは変異しやすいウイルスなのである。
医学部2年生の RT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)の実習を指導していたことがある。インフルエンザ感染細胞からRNAを取り出しDNAに逆転写してPCRで増やすのである。
うまくいけば電気泳動をするときれいなバンドが光って見える。ところがRNAは壊れやすい。RNA分解酵素が至る所に存在していて、粗雑に扱うと切れてしまう。このステップを女子学生が行うと大抵うまくいったが、男子ばかりの班は全滅することもあった。電気泳動をかけたまま全員ドロンして、DNAが流れ去ってしまったこともあった。男子の草食化の影響か女子学生増加のおかげか、だんだん失敗例は少なくなった。
コロナウイルスの遺伝子はRNAであり、壊れやすいが変異しやすい。どこか生命の起源に近いところから人類に警告しているのかもしれない。
(2020年7月21日 記)