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~炎症性腸疾患の人の生活~

消化器病センター長 田中 龍

皆様こんにちは。

新宿つるかめクリニック消化器病センター長の田中龍と申します。

 

さて、前回は緊急企画的に炎症性腸疾患と新型コロナの関係について、説明させていただきました。

 
 

前回のまとめ

  • ・IBD患者がコロナにかかりやすいという統計はない
    ・IBD患者がコロナに罹患した場合重症化しやすいという統計はない
    ・現疾患の治療が最も重要であり、主治医に相談せずに勝手に治療を止めたり、減薬してはいけない
    ・感染した場合、治療薬の継続や休薬は主治医と感染症担当医と相談して行う

 

今回は、炎症性腸疾患の患者さんが実際にどんな生活を送っているのか、を説明しようと思います。

治療であるとか病態であるとか、医学的な内容に関してはここでは触れません。

質問がある方は是非外来受診してみてください。

また、当法人分院の小金井つるかめクリニックのブログでは、同じように炎症性腸疾患がご専門の川上智寛先生がIBDの治療薬などについて詳しく説明してくれています。

(『潰瘍性大腸炎の』となっておりますが、使用薬剤はクローン病でもかなり似ております)

ご参考下さい。https://koganei.tsurukamekai.jp/blog/index.html

 

~炎症性腸疾患(以下、IBD)の人の生活~

・活動期と緩解期

炎症性腸疾患の方の生活を語る上で外せないのがこの【活動期】と【緩解期】の関係です。

活動期というのはその名の通りで、疾患の活動性が高い状態、つまり患者さんにとっては具合の悪い状態です。

緩解期というのはその逆で、疾患の活動性が低い状態、つまり患者さんにとっては落ち着いている状態です。

 

・緩解期とは

先に緩解期(寛解期とも言います)の話からしていきますが、緩解期の患者さんは発症前と同じような生活ができる方が多いです。

普通にご飯を食べて、学校に行ったり仕事に行ったり、推奨はしませんが節度を持って飲酒をしたり、旅行に行ったり、運動をしたり。

大きな制限はありません。ただし、クローン病の小腸型の方は脂や繊維など食事内容に気をつける必要があります。

 

・活動期とは

逆に活動期というのは、症状も顕著に表れます。便の回数が増えたり(10/日以上)・血便が出たり・腹痛や発熱に苦しんだり。

症状が軽めであれば、仕事や学校にも行けると思いますが、1時間に1回トイレに行ったり、血便が出ているような状況ではあまりお勧めできません。

難しいのはその線引きです。実は、炎症性腸疾患の活動期の方は周囲の人から具合が悪いのを理解してもらいにくいんです。

 

例えばあなたが仕事をしていて、同じオフィスにいる同僚が、マスクをしてゲホゲホ咳をしていれば『風邪かな?具合悪いんだろうな』と察することが出来ます。

春に鼻をスビスビすすって、大音量のくしゃみを奏でている人を見れば『花粉症かな』とわかります。

IBDの人は、、、『なんかあいつよくトイレ行くなぁ』って程度です。なんなら『サボリか?』とすら、周囲の人は感じちゃうかもしれません。

もちろん、よっぽど重症で熱があったり血便が出たりすればわかりやすいですが、そんな人は仕事に行ってはいけませんよ。

 

・活動期におけるマイルール

ただ、この【活動期の中での】境界も非常に判断が難しいです。

仕事ができる程度なのか・仕事を休んで自宅療養する程度なのか・入院する程度なのか・手術が必要な程度なのか。

これらの移行は段階的に起こっていくものではなく、なだらかに移行していくものです。

この病気とは長い付き合いになるわけですから、私はマイルールを作っておくことをお勧めしています。

この症状が出たら仕事は休む。これとこれとこの症状までだったら残業なしでの仕事まではする。等です。

もちろん、主治医と相談しながらルールを作っておきましょう。

 

また、当然のことながら周囲の理解も大事です。

IBDはまだ認知度も十分とは言えず、上記の通り周囲にも理解されづらいです。

打ち明けることで、進級や出世に響くと考え、周囲に隠しておく方もいらっしゃいますが、私はお勧めしません。社会人の方は上司や仲のいい同僚・学生の方は担任の先生などに病状をお話ししておくことをお勧めします。

 

・緩解期→活動期となる契機

さて、せっかく落ち着いていたのに、病状が悪くなってしまうこともあります。

明らかな誘因がある場合もありますし、あまりはっきりした誘因がない場合もあります。

明らかな誘因としては、感染・外傷・環境の変化・ストレスなどがあげられます。

きっかけがあるとIBDの病態は悪くなりやすいですね。

気を付けなければならないのが、『結婚』『出産』『進学』『就職』といった一見プラスの環境の変化も誘因になりえます。当然ですよね、プラスの環境の変化だって、ストレスはかかりますから。

 

実はこの原稿を書いている期間に安倍首相が辞任の意向を示しました。

過剰労働+ストレスといったところでしょうか。

一国の首相としての重圧は、このコロナ渦でかなりのものだったはずです。

賛否両論あると思いますが、私は英断と思いました。

迷いもある中、自分の設定したルールに基づいて行動したのではないかと私は考えています。

 

・定期受診の大切さ

ところで、ストレスを感じない人なんているのでしょうか?風邪をひかない人っているのでしょうか?一生環境が変わらない人っているのでしょうか?

もちろん答えはNOです。

残念ながら、どんなに注意して生活していても再発するときは再発します。

どんなに気にしないで生活していても、病態としてずっと落ち着いている人もいます。

過剰に恐れて、過度に生活を制限することはお勧めしません。

それよりも、定期的に通院しながら具合が悪いときは素早く対応する、ほうが私はよいと思います。

今回のまとめ
・緩解期:落ち着いている状態。ほぼ普通通りの生活ができる
・活動期:症状のある状態。具合が悪い
・活動期の際の、就労や就学に関するマイルールを作成しておく。
・感染・外傷・環境の変化・ストレスなどで緩解期から活動期に移行してしまうことがある
・生活を過度に制限するのではなく、活動期になった際に早急に対応できるように定期的に受診をする

さて、IBDに関して3回にわたり解説してまいりましたこのブログも今回で一段落とさせていただきます。別の機会にピロリ菌や肝臓に関しても解説していきたいと思います。

 

第7回は 早瀬行治 先生にお願いします。

タイトルは"起源"です。

消化器病センターのページはこちらです。

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