循環器内科 門前 幸志郎
(マラソンに挑む中年男子)
皆様こんにちは。
新宿つるかめクリニック院長の門前幸志郎と申します。
前回のブログに引き続いて、今回も運動についてのお話をさせていただきます。
前回のポイントは、
・運動は様々な疾病の予防や健康増進に有効である。
・運動の強さの単位にメッツ(METs)、量の単位にエクササイズ(Ex)があり、
METs × 時間 = Ex
・1METの運動は1時間(=1Ex)で体重1㎏当たりおよそ1キロカロリー(kcal)を消費する。
・自身がよく行う運動が何METsの強さに相当するかを知っていれば、行った運動の時間と体重から、およそのエネルギー消費量が分かる。つまり、
エネルギー消費量kcal ≒ METs × 時間 × 体重kg
でした。
また、前回の最後にお出しした問題は、
「体重60㎏の人が、1週間に1時間のウォーキング(強さを3METsとします)を3回、40分のエアロビクス(6METs)を3回行い、さらには30分の水泳(8METs)を1回行いました。この人は週に何Exの運動をして、それによっておよそ何kcalを消費したでしょう? また、この人は厚生労働省が推奨する18~64歳の人の運動(身体活動)量の目標を超えることができたでしょうか?」
でしたが、お分かりになったでしょうか。
答えですが、
ウォーキングで、3METs × 1時間 × 3回 = 9Ex
エアロビクスで、6METs × 40 / 60 時間 × 3回 = 12Ex
水泳で、8METs × 30 / 60 時間 × 1回 = 4Ex
の運動を行いましたから、合計でおよそ、
9 + 12 + 4 = 25Ex
の運動を1週間で行ったことになりますね。
この人は体重が60㎏なので、この1週間の運動でおよそ、
25Ex × 60㎏ = 1,500kcal
のエネルギーを消費したことになりますね。
また、18~64歳の健康な人は週に23Ex(3METs以上の強さの運動による)の運動を推奨されていますから、この人はその目標を超えていることになります。
(答) 25Ex、1,500kcal、目標を超えている。
このような感じで、皆様もご自身で行う運動でどのくらいのエネルギー消費ができたかを計算されてみてはいかがでしょうか。
さて、皆様の中には肥満でお悩みの方も多いかと思います。肥満は主に糖尿病・高血圧・脂質代謝異常などの生活習慣病の合併により動脈硬化を進めてしまう点で、健康と生命を脅かす大敵です。また、足腰の筋肉や関節にも負担がかかり、高齢になるほど筋力、体力が相対的に弱くなり、生活の質が低下します(今回はお話をしませんが、関連する状態をサルコペニア、フレイルなどと言います)。そこで肥満解消と行きたいところですが、いざ体重を減らしたいと思っても、厳しい食事制限を続けることはなかなか難しくて辛いことですね。
そこで今回のブログでは、
食事制限に頼らずに運動で健康的に体重を減らすこと
をテーマにお話ししたいと思います。
以下に具体例を挙げながらご説明します。今回も計算式が多くなりますが、ご容赦ください。
皆様それぞれに性別、年齢、身長などに応じた理想体重があり、体重指数(BMI)を用いた計算法などがありますが、簡便には概ね、
理想体重kg =( 身長cm - 100 )× 0.9
を目安にされても良いと思います。例えば身長180cmの人のバランスの良いおよその体重は、
( 180cm - 100 )× 0.9 = 72kg
となります。
いま仮にこの人を肥満に悩むドクターMと呼ぶことにしましょう。Mさんの体重が現在80㎏だとして、彼が「月におよそ1㎏、半年で5~6㎏程度体重を減らして、理想体重に近づこう!」という目標を立てたとします。
そこでまず、体重を1kg減らしたい場合にどのくらいのエネルギーの減量が必要なのでしょうか。
これも詳しい理論や計算は省かせていただきますが、
「体脂肪1kgを燃焼させる(減らす)ために必要なエネルギーは約7,000kcalである」
と言われています。
すなわち、仮にいま1ヶ月で1kgの体重を減らすためには、
7,000kcal ÷ 約30日 = 約230kcal
となり、1日当たり平均でおよそ230kcalのエネルギーを余計に消費し続ける必要があります。
ここからは、体に出入りをするエネルギー量のバランスの計算になります。すなわち、
「体重を減らすには、
エネルギー摂取量(食事量)- エネルギー消費量(基礎代謝量+運動量)
をマイナスバランスにし続けなければならない」
というわけです。なお、基礎代謝量とは安静にしている状態で生命の維持に必要な最小限のエネルギー量のことを指します。
それではまず、食事によって体に入るエネルギー摂取量の計算をしてみましょう。
日本人の推定エネルギー摂取量(特に食事療法をしていない場合)は、厚生労働省の調査によると、1日当たりでおよそ、
男性: 2,000~2,200kcal
女性: 1,600~1,800kcal
とされています。ただし、この数値には誤差があり、過少申告である場合が多いとのことで、平均して11~15%の過少申告率とのことです。
そこでMさんは1日に食事で、
2,000kcal × 115%(誤差修正) = 2,300kcal
のエネルギーを摂取しているとしましょう。
次に、基礎代謝や運動で体から出ていくエネルギー(消費量)の計算をしましょう。
実は、1日当たりの基礎代謝量(安静にしているだけで消費されるエネルギー量)は、先にお示しした、
・安静時の運動強度はおよそ1MET。
・1METの運動は1時間(=1Ex)で体重1㎏当たりおよそ1kcalを消費する。
から、およその値が簡単にわかります。つまり、
基礎代謝量kcal ≒ 1MET(安静時の運動強度) × 24時間 × 体重kg
で計算でき、Mさんの場合のおよそ基礎代謝量は、
1METs × 24時間 × 80kg = 1,920kcal
となります。およその基礎代謝量が「24時間×体重kg」で簡単にわかるとは驚きですね(あくまでも概算で、他の推定式などもあります)。
さて、Mさんが1日に運動で消費するエネルギーをXとします。すると1日に消費されるエネルギー量の合計は、基礎代謝量+運動量で、
( 1,920 + X )kcal
となりますね。ちなみに厳密に言うとXには、通勤での歩行や仕事中に慌てて院内を走り回っているときの運動も含まれます(ただし、今回の計算では生活活動や仕事による運動は省きます)。
これで必要なものが出そろいました。つまり、先に示したように月1㎏の体重を減量するため1日当たり230kcalずつエネルギーバランスをマイナスにするには、
2,300kcal(摂取量) - ( 1,920 + X )kcal(消費量)= -230kcal
となればよいわけです。したがって、
X = 230 + 2,300 - 1,920 = 610kcal
のエネルギーを消費する運動を1日平均で続ければよい、ということになります。
これが体重80㎏のMさんにとって、どのくらいの運動量に当たるのかというと、
Ex × 体重kg = エネルギー消費量 の式に当てはめて、
610kcal ÷ 80kg = 約7.6Ex
となりますから、1日当たりおよそ7~8Ex程度の運動を行うとよいのです。
これは例えば、早歩き(4METs)でおよそ2時間、ジョギングやテニス(7METs)で約1時間、などの運動に相当します。
ちなみに現在ドクターMは中年男子にしては頑張って、週に30分のジョギングを3回、2時間のテニスを1回行っていますが、これだと1週間の合計で、
7METs ×( 0.5 × 3 )時間 + 7METs × 2時間 = 24.5Ex
の運動をしています。厚生労働省の推奨する週当たりの運動量(23Ex以上)は超えているのですが、目標どおりに月1㎏減量するには、1週間でおよそ、
7.6Ex × 7日 = 53.2Ex
の運動が必要ですから、目標に到達するためには現在の倍以上の運動を行わなければなりません。日々の診療で忙しいドクターMには困難なミッションです。
皆様もご興味がありましたら、上記のようにご自身でエネルギー摂取量と消費量の計算をして、体重減量の計画を立ててみてはいかがでしょうか。そうしてご自身に当てはめていただいた場合に、運動による体重減量は簡単だと思われますか。必要な運動を毎日、毎週、必ず実行できそうでしょうか。何についてもそうですが、持続することは意外に大変なものです。体重減量はやはり難しいミッションであることがお分かりいただけたのではないでしょうか。「結構たくさん運動したのに痩せないなあ。」と日ごろ感じている方も、上記のような計算をしてみると理論的に納得できるかもしれません。
ただし今回は食事療法のことには触れておりません。食事療法を上手に組み合わせれば、より効率的に体重減量が図れることになります。交通安全の標語ではありませんが、
「食べたら動け。動かないなら食べるな。」
ということですね。少々乱暴な言い方ですみませんでした。運動にはその人に合った適切な内容や量がありますし、食べ方もそれぞれで、過食や偏りがないように量やバランスを考えましょう、ということを申したい次第です。
今回のまとめ
・体脂肪1kgを燃焼させる(減らす)ために必要なエネルギーは約7,000kcalである(月1kgを減量するには1日当たり約230kcal)。
・基礎代謝量kcal / day ≒ 1MET(安静時の運動強度) × 24時間 × 体重kg
・体重を減らすには、エネルギー摂取量(食事量) - エネルギー消費量(基礎代謝量+運動量)をマイナスバランスにし続けなければならない。
体重減量に限らず、健康を維持することは容易ではありません。ただ、皆様も感じておられるように、人生の幸せの源にあるのが健康だと思います。ブログ第1回のご挨拶でも述べましたが、皆様が何事にも優先してご自身の疾病の治療や健康の増進に努めてくださいますことを切にお願い申し上げます。当クリニックはこれからも、皆様の健康の維持増進のために少しでもお役に立ちたいと考えておりますので、何なりとご相談いただけましたら幸いです。
これにて私からの今回のシリーズは終わりになります。長文、散文となりましたことをご容赦ください。ご通読くださいまして、ありがとうございました。
次回からは、当クリニック消化器病センター長である田中龍医師が担当いたします。
どうぞご期待ください。
第4回「~炎症性腸疾患とは~」に続く👉
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